折角なので生化学実験のTipsでも書いておこうかと思います。面倒くさがりなので、ちゃんとしたものなるかは我ながら疑問ですがコツコツ書き足せればと思っております。
まず最初は遺伝子工学&生化学の基本である、大腸菌の取り扱いでも書いてみようと思います。
大腸菌の使い道
大腸菌は、目的遺伝子の組み換えや目的蛋白質の発現などで活躍する、生化学者に最もなじみの深い菌です。遺伝子工学によって様々な菌株が開発されています。
大腸菌の菌株の選択
大腸菌の菌株は実験の用途に応じて使い分けるのが基本かと思います。遺伝子組み換えの時はDH5α株の一択かと思いますが、蛋白質発現の時には目的蛋白質と菌株の組み合わせによって、菌の増え方と目的蛋白質の発現量が大きく異なりますのでケースバイケースという印象です。私は普段、BL21(DE3)株やBL21(DE3)RIPL, Rossetta2(DE3)などを主に使用しております。蛋白質発現に特化した菌株は色々なメーカーから様々なものが市販されているので、目的蛋白質の種類によってそれらを使い分けるのが良いと思います。最初は菌株の種類と培養・誘導条件を簡単なマトリックスにして、比較検討するようにしています。
例えば最近の実例ですが、とあるT細胞受容体の場合にはBL21(DE3)とRossetta2(DE3)の二種類の菌株で誘導条件を2パターン試して、合計4つのマトリックスにして最適化を探すようにしています。この場合は大腸菌の不溶性画分から回収して巻き戻し法によって精製することが多いのですが、菌株はRosseta2 (DE3)が比較的良好な結果を得られています。
ベクターの選択
最終的に得られる蛋白質の収量や安定性に最も寄与するのが発現領域の選択ですが、それ以外にもアフィニティー精製用のタグの種類や位置(N末端かC末端)、タグを切断するためのプロテアーゼの選択などが重要になります。蛋白質の発現用にはpET, pGEX, pCold, pGMT7などを色々使い分けています。タグの種類は本当に色々ありますが、HisタグかGSTタグをよく使います。封入体からの巻き戻し法などでは特にタグを使わなくても高純度に精製できたりします。
蛋白質発現の誘導条件
IPTGによる発現誘導は添加するIPTG濃度と誘導後の温度、培養時間などのパラメータを最適化する必要があります。
LB培地の組成 (1L辺り)
10g Tryptone (Nacalai tesque, code: 35640-95)
5g Yeast extract (Nacalai tesque, code: 15838-45)
10g NaCl (Nacalai tesque, code: 31320-05)
*ラボによっては三つすべて10グラムずつ入れている所もあり。
*1Lの培地作成を横着するときはミリQを1L入れ、粉末を加えてオートクレーブしている。
TYP培地 の組成(1L辺り)
16g Tryptone
16g Yeast extract
5g NaCl
3.3g Potassium phosphate dibasic
*Dissolved into pure water & adjusted to 1L, then autoclaved (121 C, 20 min)
*大腸菌の大量培養は普段LB培地を使っているが、菌体収量が悪い場合にはTYP培地にすることがあります。ただ大腸菌の菌体量と肝心の蛋白質の収量は必ずしも相関しない印象があるので痛し痒しですが。
Antibiotics stock solution
Stock Solvent Used
Ampicilin (or Calbenicilin) 50mg/mL Water 20~60ug/mL
Tetracycline 5mg/mL Ethanol 10~50ug/mL
Chloramphenicol 100mg/mL Ethanol 25~170ug/mL
Kanamycin 20mg/mL Water 10~50ug/mL
Streptomycin 20mg/mL Water 10~50ug/mL
*AmpicilinにするかCalbenicilinにするかはラボに依る印象。