色々ありまして某私立大学の薬学部の学生に熱力学を教えております。期間は半期で全部で14回です。準備期間が短く大変です。授業を用意するための備忘録を書いておこうと思います。
授業の目標は、「薬剤師国家試験で出題される、物理・化学・生物の該当問題が無理なく解けるようになること」にしました。
第1回 気体の状態方程式
1-1: 理想気体の諸法則
まずは高校の化学の復習からスタートする。ボイルの法則、シャルルの法則、ドルトンの分圧の法則、理想気体の状態方程式をおさらいする。温度のはなし(セルシウス温度、ファーレンハイト温度、絶対温度)
薬剤師国家試験:第103回、問4→理想気体の状態方程式
理想気体の物質量n、圧力p、気体定数R、熱力学温度T、体積Vについて成立する関係はどれか。1つ選べ。
1. n = RTV/p
2. n = pT/RV
3. n = pRT/V
4. n = pV/RT
5. n = RT/pV
解答:4
1-2: ファンデルワールスの状態方程式
実在気体の状態方程式、ファンデルワールス定数(a, b:各気体に固有)、分子間相互作用の補正項(+an2/v2)と体積の補正項(-nb)を正確に覚えてもらう。
薬剤師国家試験:第111回、問91→ファンデルワールスの状態方程式
第2回 気体の分子運動論
2-1: 気体の分子運動論とエネルギー
統計熱力学の初歩的な内容。気体の分子運動論から理想気体の状態方程式を導く。
第3回 エネルギーの量子化、ボルツマン分布
3-1: マクスウェルの速度分布
気体分子の分子運動論の続き。気体分子の速度、運動エネルギーについて。マクスウェルの速度分布の特徴(温度が上がると分布が広がる。最大確率速度よりも平均速度の方が大きい、など)を理解してもらう。
薬剤師国家試験:第100回、問92→マクスウェル分布
3-2: 気体分子の運動エネルギー
ボルツマン定数の導入。気体1分子あたりの気体定数。気体定数をアボガドロ定数で割る。
単原子分子の運動→並進運動、x, y, z軸方向の3つの自由度
二原子分子の運動→並進運動に加えて、回転運動、振動運動が加わってくる
3-3: ボルツマン分布
エネルギーの量子化。エネルギー準位の間隔。各エネルギー準位にどれだけの数の分子が分布するのか?
薬剤師国家試験:第110回、問93→ボルツマン分布
薬剤師国家試験:第105回、問94→ボルツマン分布
第4回 熱力学第一法則
4-1: 熱力学における系
系、外界、境界の定義。開放系(開いた系)、閉鎖系(閉じた系)、孤立系。閉じた系は何に閉じているのか?閉じた系として、定圧過程、定容過程、断熱過程の特徴を学ぶ。
薬剤師国家試験:第110回、問2→閉じた系が外界とやりとりできるもの
熱力学における「閉じた系」において、熱、物質および仕事のうち、外界とやりとりできるものだけをすべて挙げたのはどれか。1つ選べ。
1.熱
2.物質
3.仕事
4.熱、仕事
5.物質、仕事
6.熱、物質
解答:4
4-2: 熱力学第一法則
エネルギーの保存則
第5回 状態関数と経路関数
5-1: 状態関数と経路関数
経路に依って量が異なるのが経路関数。経路に依らないのが状態関数。経路関数は熱、仕事、活性化エネルギーの3つを覚えてもらう。
薬剤師国家試験:第107回、問93→状態関数と経路関数
5-2: 示量性状態関数と示強性状態関数
状態関数は加成性の有無で示量性と示強性の2種類に分類できる。示量性状態関数が足せる方、示強性状態関数が足せない方。水を例にして体積や質量は足し算ができるので示量性、温度は足し算ができないので示強性の状態関数。国家試験では頻出ポイントのようなので、分類を覚えてもらう。
薬剤師国家試験:第101回、問3→示強性状態関数
薬剤師国家試験:第109回、問92→状態関数
第101回・問3
示強性状態関数の熱力学的パラメータはどれか。1つ選べ。
1.ギブズ自由エネルギー(G)
2.エンタルピー(H)
3.圧力(P)
4.エントロピー(S)
5.内部エネルギー(U)
解答:3
第107回・問93
状態関数と経路関数に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.熱と仕事は経路関数である。
2.温度は示量性の状態関数である。
3.エンタルピーは示強性の状態関数である。
4.熱力学第一法則より、内部エネルギーは経路関数であることがわかる。
5.状態関数の変化量は、可逆過程でも不可逆過程でも等しい。
解答:1,5
第109回・問92
状態関数に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.状態関数の変化量は系の変化の経路に依存する
2.示量性状態関数において加成性が成立する。
3.示強性状態関数は物質量に依存する。
4.体積は示量性状態関数である。
5.エントロピーは示強性状態関数である。
解答:2,4
第110回・問91
理想気体からなる閉じた系における熱力学第一法則に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1.定温過程において、系に加えられた熱量はすべて系がする仕事になる。
2.内部エネルギー変化は、系に加えられた熱量と系が外界からされた仕事の和で表される。
3.断熱過程において、系の体積が増加すると内部エネルギーも増加する。
4.内部エネルギー変化は経路関数である熱と仕事からなり、それ自体も経路関数である。
5.系が外界に対してする仕事は、不可逆過程の方が可逆過程より大きい。
解答:1、2
5-3: 閉じた系の熱力学第一法則
等温過程(温度が一定=内部エネルギー変化がない)
断熱過程(外部との熱のやり取りがない)
定圧過程(圧力が一定なだけで、熱や仕事の出入りがある)
定容過程(体積が一定。したがって仕事の出入りがない=加えた熱量はすべて内部エネルギー変化になる)
薬剤師国家試験:第99回、問92→熱力学第一法則の計算問題
薬剤師国家試験:第110回、問91→閉じた系の熱力学第一法則
第6回 熱容量
熱容量と比熱
定圧熱容量と定容熱容量
薬剤師国家試験:第98回、問92→定圧熱容量と分子運動
第7回 エンタルピー
7-1: エンタルピーの導入
エンタルピーの定義を説明する。エンタルピーと熱の関係を説明する。
7-2: 様々なエンタルピー
化学反応や相転移における様々なエンタルピー(〇〇エンタルピー)を説明する。
薬剤師国家試験:第109回、問96→熱容量とエンタルピー
第8回 エントロピー、熱力学第二法則
熱力学的エントロピーと統計学的エントロピー
シュレーディンガーの「生命とは何か?」とエントロピー
薬剤師国家試験:第103回、問1→乱雑さとエントロピー
薬剤師国家試験:第101回、問91→純物質のエントロピーの温度異存性
薬剤師国家試験:第108回、問92→エントロピーの正誤問題
第9回 熱力学第三法則、ギブズエネルギー
熱力学第三法則。絶対エントロピー、残余エントロピー
ギブズエネルギーとヘルムホルツエネルギー
薬剤師国家試験:第97回、問91→熱力学の正誤問題
第10回 化学ポテンシャル
化学ポテンシャルとは何か?
化学ポテンシャルと平衡の方向
ギブズエネルギーと平衡定数
薬剤師国家試験:第105回、問5→化学ポテンシャルの穴埋め問題
薬剤師国家試験:第106回、問2→ギブズエネルギーの選択問題
第11回 ルシャトリエの原理、ファントホッフプロット
11-1: ルシャトリエの原理
ルシャトリエの原理と平衡の方向を理解してもらう。加えた変動を緩和する方向、つまり打ち消す方向に進む。
薬剤師国家試験:第107回、問2→ルシャトリエの原理の選択問題
薬剤師国家試験:第97回、問92→ルシャトリエの原理の選択問題
11-2: ファントホッフプロット
ファントホッフプロットの傾きと吸熱反応(傾きが負)、発熱反応(傾きが正)を理解してもらう。また、グラフを実際に描いて、ファントホッフプロットから標準エンタルピー変化と標準エントロピー変化を求めてもらう。ついでにエンタルピー駆動とエントロピー駆動の違いを理解してもらう。
薬剤師国家試験:第110回、問92→ファントホッフプロットの選択問題
薬剤師国家試験:第99回、問2→ファントホッフプロットの選択問題
第12回 共役反応
12-1: 共役反応とは何か?
共役反応の定義。一方の化学反応における生成物が、一方の化学反応における反応物になっている。生体内で起こるATPの加水分解反応の共役反応を例にしてイメージをつかんでもらう。
12-2: ギブズエネルギーの加成性
共役反応の合言葉「標準ギブズエネルギー変化は足し算、平衡定数は掛け算」
薬剤師国家試験:第108回、問2→共役反応と平衡定数
第13回 相変化と状態図
13-1: 状態図
圧力と温度の状態図における、各相(固相、液相、気相)の配置や各曲線(蒸発曲線、融解曲線、昇華曲線)の名称を覚えてもらう。三重点や超臨界状態の説明。曲線を求めるためのクラペイロンの式とクラウジウス・クラペイロンの式の概略を説明する。特に、水と二酸化炭素の融解曲線の傾きの違いは重要なので理解してもらう。固相‐液相平衡状態で圧力を上げるとどうなるか?と聞かれたら答えられるようになってもらう。
また、化学ポテンシャルと温度の状態図も出ることがあるので見方を理解してもらう。凝固点および沸点でどのようなことが起こっているのか?過冷却の時にどうなるのか?を理解してもらう。
薬剤師国家試験:第108回、問1→水の状態図と相変化
薬剤師国家試験:第98回、問93→クラペイロンの式と相転移
薬剤師国家試験:第102回、問93→化学ポテンシャルの状態図
13-2: ギブズの相律
状態を規定する独立変数の数、自由度Fを求める式。F=C - P + 2。Fは三重点で0 (=1-3+2)。Fは蒸発曲線、融解曲線、昇華曲線上の点で1 (=1-2+2)。固相、液相、気相の各点で2 (1-1+2)。
薬剤師国家試験:第104回、問3→水の状態図とギブズの相律
13-3: 相平衡 気相‐液相平衡(1)
図の横軸と縦軸は何か。液相と気相、液相‐気相混合が図の中でどこに位置するのか?タイライン(組成を求める)、てこの規則(量比を求める)
第14回 相平衡
14-1: 相平衡 気相‐液相平衡(2)
蒸留の原理。共沸混合物(葉っぱ2枚パターン)。2成分系で各成分の沸点より混合物の沸点が高くなる。異分子間相互作用の方が、同種間相互作用よりも強い。
薬剤師国家試験:第96回、問19→気相‐液相平衡(クロロホルムとアセトン)
14-2: 相平衡 液相‐液相平衡(水とフェノール)
1相と2相(水相(上側)とフェノール相(下側)に分かれる。大事な点は水相にもフェノールが溶けており、フェノール相にも水が溶けていること。その組成を知るにはタイラインを引いて、相線と交わったところで垂線を下ろして横軸の目盛りを読む。また水相とフェノール相の量の比はタイラインからてこの規則を使って求める。
14-3: 相平衡 液相‐固相平衡(共融混合物、ベンゼンとナフタレン)
ベンゼンとナフタレンの液相‐固相平衡。共融混合物なので扇が2つパターン。扇の中の状態がどうなっているか理解してもらう。
薬剤師国家試験:第103回、問92→液相‐固相平衡(水と塩化ナトリウム)