2025年3月21日金曜日

「ノスタル爺」(藤子F不二雄、小学館・SF短編Perfect版2巻)を読み返して

最近は、若い頃に比べて体調が変化してきまして、オジサンらしく加齢を感じることが多くなってきました。また自分が小さかった頃に起こった出来事や、当時流行した音楽だったり漫画や小説などが、異常に鮮明に記憶に蘇ってきたりして、ノスタルジーに浸ることが多くなってきました(万博と言えば、ミャクミャクではなく、コスモ星丸!)。老化は自然現象なので仕方ないのですが、実際に体験すると感慨深いものがあります。


ノスタルジーという言葉を聞くと、いつも思い出すのが、藤子F不二雄先生が描かれた「ノスタル爺」(小学館、SF短編Perfect版2巻に収蔵)というSF短編です。藤子F不二雄先生と言えば、ドラえもんをはじめ、キテレツ大百科、パーマン、21えもんなど、子供向けの夢のあるSF(少し不思議な)作品が有名ですが、その一方で沢山のSF(Science Fiction)短編を描かれています。それらの多くは核戦争や食糧問題などを取り扱ったもので、バットエンドも多く深刻で重たい作品で、普段の子供向け作品とは一線を画しています。大人になると、作者の二面性がとても興味深いです。


「ノスタル爺」は、タイムリープものの作品で何とも言えない後味の作品です。ご興味のある方は是非コミックスをご覧ください。オジサンは勢いでハードカバー版全集をそろえてしまいましたが、文庫版のコミックスも出ていたと記憶しております。



<以下、あらすじ>

主人公の浦島太吉は、太平洋戦争に従軍したものの、戦争の終結に気づかず、孤島のジャングルに30年取り残された人物で、戦死したと思われていました。物語の冒頭、日本に30年ぶりに戻ってきた浦島が親戚に案内されて、既にダムの底に沈んだ故郷の立宮村や一族の墓などを巡ります。そこで最愛の妻が死亡したことを告げられます。太吉の妻は里子といい、同じ集落に住む幼いころからの許嫁でした。太吉が召集令状を受け取ると、一族ははなむけに二人の祝言を挙げます。その夜、太吉は里子に、もし自分が戦死したら自分の事は忘れて再婚して幸せになってほしいと告げますが、里子は大泣きします。太吉は後ろ髪を引かれる思いで里子を振りほどき庭へ出るのですが、それを土蔵に軟禁されている謎の老人から咎めされます。その後、太吉は出征したまま戻らず、里子は再婚もせずにその帰りを待ち続け、再会が叶わぬまま死亡します。また、土蔵にいた老人も里子を追うように亡くなったと親族から告げられます。

浦島は、里子との甘美な思い出に浸りながらダムの周囲を散策するのですが、ふと気が付くと目の前に幼い姿の里子が歩いているのを発見します。どうやら自分は今の姿のままで過去の世界に迷い込んだようです。最愛の里子をみて気が動転した太吉は喜びのあまり里子に抱き着きますが、村人に取り押さえられ、折檻されたのち村の有力者である浦島家に引き渡されます。そこで太吉は自分は浦島家に所縁のものであり、土蔵に軟禁してほしいと願い出ます。一族の恥が世間に露呈するのを恐れた当主(太吉の父)は承諾し、太吉を土蔵に閉じ込めます。太吉は土蔵の中から愛する里子の元気に遊ぶ声を聴きながら、涙を流して聞きいるシーンで物語は幕を閉じます。