2025年7月24日木曜日

「危険な斜面」(松本清張著、文春文庫)の「投影」に元気をもらう

たまには爽やかな気分になりたいと、短編集「危険な斜面」(松本清張著、文春文庫)に収蔵されている、「投影」を読み返して元気をもらいました。

この作品の主人公は、田村太市という若者で、東京の一流新聞社で記者として働いていたが、上司と喧嘩して社を飛び出してしまいます。そして嫁の頼子と共に瀬戸内のS市に居を移します。二人はしばらくのんびりしていたのですが、やがて頼子はS市のキャバレーで働くようになり、太市も市政を報じる陽道新報社という小さな新聞社に記者として就職します。陽道新報社は社長の畠中嘉吉とその細君、記者の湯浅新六の3人しか在籍しておらず、発行部数も千部程度の弱小新聞社でした。そんな小さな会社ですが、社長は貧乏に甘んじ、しかも病床に臥していながらも正義感が強く、いつも気炎を上げています。一方、記者の湯浅は猫背で周囲には卑屈に振る舞っているが、時折り芯の強さを感じさせる中々の好人物であり、太市は彼らに惹かれていきます。

そんな折、太市は市役所を訪問中に市会議員の石井が土木課長の南を恫喝している所を目撃します。どうやら石井は道路予定地上に自身が所有する廃工場に対して、400万円の立退料を南課長に要求しているが、その要求を拒絶されて脅しにきたらしいのです。しかし、南は気の弱い人物ながら正義感が強く、意地を通して突っぱねます。

そのうちに人事異動があり、南課長の部下だった山下係長が新設された港湾課の課長に昇進します。山下は石井議員の腹心でした。そして山下課長の昇進祝いの夜、南課長が自転車で帰宅途中に海に転落して死亡します。警察は事故死ではないかと推定するのですが、社長は石井らによる他殺であることを見抜きます。太市と湯浅は苦労しながらも手分けをして情報を集め、彼らの殺人トリックと助成金詐欺をあばきます。そしてすべてが解決したのち、太市は再び東京に職を得て、夫婦でS市を離れるのです。

本作品は清張作品によくある官民の癒着が絡んだ殺人事件とその解明がテーマながら、中央の新聞社から追い出された主人公が田舎の小さな新聞社で自己を見つめ直して成長し、再び中央に戻っていく、という成長物語が織り込まれた爽やかな(?)作品です。

最後の主人公夫婦と陽道新報の面々との別れのシーンも感動的で、清張版の青春小説という印象を受けました。

2025年7月22日火曜日

「装飾評伝」(松本清張著)の執拗な嫌がらせに戦慄する

夏なのでゾクゾクしたくて「装飾評伝」(光文社文庫・松本清張短編全集09巻収蔵)を読み返しました。オバケも怖いし私はその手の話はとても苦手ですが、多分人間の方がより怖いだろうと思わせてくれる素敵な作品です。


この物語は、小説家で主人公の「私」が名和薛治という明治から昭和初期まで活躍した画家を題材に小説を書こうとするところから始まります。名和は明治21年に東京で生まれ、日本の画壇で異彩を放つ活躍をみせたのち、渡欧しアントワープに滞在してボッシュやブリューゲルに私淑します。日本に戻って来てからも北欧の写実的なエッセンスを取り入れた独自の境地を切り開きますが、何故か徐々に精彩を失い、私生活も荒んでいき、昭和6年に石川県の能登の海岸で不慮の死を遂げる、という生涯を辿ります。ここで主人公は、名和に関する情報は全て芦名信弘という名和の画家仲間が書いた評伝に依っていることに気づきます。そんな折、芦名が72歳で亡くなると言うニュースを受け、情報のソースを失って愕然とします。

そこで主人公は一念発起し、芦名の遺族である娘の陽子に面会して情報を得ようとしますが、拒絶されてしまいます。さらに、名和のかつての画家仲間で現在は画壇の重鎮になっている葉山光介を訪ねたところ、娘の出自について名和の子ではないかと示唆を得ます。そのことに主人公は衝撃を受け、芦名が評伝に書いた内容の行間に潜む、恐るべき作為に気づきます。どうやら芦名は夫婦で名和と交際しているうちに、名和と奥さんができてしまい、名和の子を身ごもったのです。そのことで芦名は名和には告げずに嫁を追い詰めて離縁し、自殺に追いやり、生まれてきた娘の陽子を引き取ります。そして表面上はこれまでと同様に名和との関係を保ちながら、娘を連れて名和を執拗に訪れることで、精神的に追い詰めていきます。名和は懊悩し、都会を離れて青梅の山奥に引きこもりますが、それでも芦名は追跡の手を休めることはありません。徐々に名和は身を持ち崩し、遂に自暴自棄となり能登の海岸で事故とも自殺ともつかない転落死で亡くなります。芦名はほぼ同年代の名和が持つ光り輝く才能に魅了され、強烈に引き付けられる一方、自身の画才は委縮し、家族も無茶苦茶にされます。その愛憎が深く入り混じるドロドロとした感情の結末として、一人の天才を完膚なきまで叩きのめします。そしてその事を平然と評伝として後世に伝えるのです。


この作品は、わずか40ページ足らずの短編ですが、切れ味が鋭く、読後の胸糞の悪さは何とも言えません。主人公である第三者が既に書かれた出版物の何気ない行間に潜むサスペンスを洗い出す展開は、同じく傑作短編作品である「西郷札」に似ています。こういう日常に潜む人間の恐ろしさを書かせたら天下一品だと思います。

2025年7月21日月曜日

「眼の気流」(松本清張著、新潮文庫)の「影」が心に沁みる

 久しぶりに松本清張の短編集「眼の気流」を読み返しました。この本には、表題作の「眼の気流」の他、「暗線」、「結婚式」、「たづたづし」、「影」の5作品が掲載されています。表題作である「眼の気流」は、清張作品の重要なキーワードであるタクシー運転手が前面に出た作品です。中央自動車道沿線が出てくると安心感すらあります。鉄板ネタです。

この中で私が一番惹かれたのが最後の「影」という作品です。この作品の主人公である宇田道夫は中国地方の鄙びた温泉宿の主人で、そこへ尾羽打ち枯らした様子の笠間久一郎という老人作家が宿に逗留します。その名前を宿帳でみた主人は、そこから二十五、六年前の因縁を思い出します。

当時、宇田青年は文学で身を立てることを志しながらも貧困に喘いでいました。自分の書いた小説は一度だけ名門「R」誌に掲載されたものの、以降は作品が続かない状態でした。そんな状況で、「R」誌の編集者だった江木が下宿を訪れてきます。宇田は作品を掲載してくれるのかと早合点しますが、江木は通俗小説を書いている売れっ子作家の笠間が多忙と体調不良で原稿を落としそうなので、その代筆(ゴーストライター)を頼みたいとのことでした。宇田は、江木から将来「R」誌に作品を掲載することを掛け合う、という曖昧な約束に引きずられて渋々OKします。

宇田は笠間の文体を研究し、さらにストーリーのテコ入れをすることで、笠間の代役を果たします。それどころか、宇田が書いた笠間の原稿は非常な評判を呼びます。笠間と江木は原稿を落とさずに安堵し、宇田は今までにない大金を得ます。味を占めた、笠間、江木、宇田の三人は次々と作品を発表し、通俗作家・笠間の名声は一段と高まります。そして笠間の念願であった全国紙での連続小説を獲得します。笠間の「影」となった宇田は本体以上の能力を発揮するのですが、本体であるはずの笠間は才能が枯渇してしまい、苦悩し酒と女に溺れます。ついに綻びが生じて代作であることが露見し、笠間は追放、小説は打ち切りとなりました。

その後の宇田は自身の創作に打ち込もうとしますが、笠間の「影」が自己と同一化してしまい、自身の作品を書くことができません。江木にも見放され、笠間と同様に切り捨てられてしまいます。宇田は職業を転々としながら温泉宿にたどり着き、現在の女房と所帯をもって宿屋の主人に落ち着きます。

そこから話は冒頭に戻り、宇田が笠間の身の上を案じながら作品が終わります。

この作品は小説のゴーストライターの話ですが、研究の分野でも似たようなものはあると思います。教授が有名人で研究室に沢山のスタッフと学生を抱えている、いわゆるビッグラボになると、中間管理職的なポジションの人が、多忙な教授に代わって色々原稿を書かされたり、研究プロジェクトを指揮したりするのは良くあることです(良いかどうかは別にして)。不思議なもので、そういう若頭的なポジションでは輝いていたのに、念願叶って独立した途端にくすんでしまう人は数多く見るように思います(個人の感想です)。こういう場合は、「影」が本体と同化して、才能が枯渇したのかと思ったりします。かと思うと、出自は曖昧ながら、独立した途端に突然変異的に才能を発揮したりする人もいます。傍らで見ていて、いつも不思議に思う所です。

松本清張自身、非常な苦労をされて年を経てから世に認められた作家ですので、こういう創作活動の奥深さを感じさせるような作品が書けるのかなと思いました。




2025年7月19日土曜日

仕事中は後ろ向きな言葉を検索する

毎日朝から晩まで忙しい研究室にいるのですが、午前中は残念ながらテンションが上がらない事が多々あり、兎角後ろ向きになります。そんな時は仕事の傍らで素直な気持ちをネットで検索して自らを慰めています。


検索ワード「助けて助けて助けて」

回答; 精神的にしんどいときの対処法&回復方法

* 無理をしないで休む

* 生活習慣の改善

* 質の良い睡眠をとる

* ストレッチなどの軽い運動を生活に取り入れる

* 芸術や自然に触れる

* とにかく楽する方法を考える

* 何も考えない時間を作る

* 他人と自分を比べない


検索ワード「何をやっても中途半端」

AIからのアドバイス:

”この状況から抜け出すためには、まず自分自身を知り、何に興味があり、何に情熱を注げるのかを理解することが大切です。そして、夢中になれることを見つけ、小さな成功体験を積み重ねることで、自信をつけていくことが重要です。また、過去に諦めてしまったことの原因を分析し、それらを克服するための具体的な行動を計画することも有効です。

さらに、完璧主義を手放し、成長に目を向けることも大切です。結果だけでなく、過程での学びや成長を評価することで、モチベーションを維持しやすくなります。

最終的には、決断力と行動力を高めることが、中途半端な状態から脱却する鍵となります。小さなことからでも良いので、決断し、行動に移す習慣をつけることが大切です。”


2025年7月14日月曜日

ブルーインパルス!【日々の雑感】

今年もすっかり暑くなりました。連日、当たり前のように大阪では気温が35℃を越えています。こんな危険な気温の中で歩き回っていると意識がもうろうとします。そんな折、大阪大学吹田キャンパスの付近をウロウロしていると、何やら空に向かってスマホのカメラを構えている人たちが大勢いました。 そういえば12日と13日はブルーインパルスが千里の万博記念公園の辺りを飛ぶというニュースを見たを思い出して、私も混じってカメラを構えていると果たして下記の写真を撮ることができました。ほんの一瞬でしたが、迫力がありました。


<架空のネット記事に踊らされそうになる>

投資関連のネットの記事に、収入が少ないので単元未満株をコツコツ買い揃えて配当収入で家計の足しにしているというのがありました。それも一理あると思い、早速とある銘柄の単元未満株を買おうかと思い立ったものの、とても割高になると知って驚きました。ざっと2割は高くなっていました。これなら高配当銘柄と言えども、元を取るのは大変そうなので止めました。この調子では、あの記事も…。何事も自分でよく調べないとダメですね。


<アニメのザ・ファブルが面白かった>

CSのアニマックスで「ザ・ファブル」のアニメを見ました。放送していることに気づくのが遅れて途中からしか見られませんでしたが、それでも面白かったです。以前、実写版映画の第1弾を見て、とても面白かったのですが、今回のアニメ版も良かったです。漫画は1巻しか読んだことがないのですが、最後まで読みたくなりました。恥ずかしながら、部屋が小説と漫画でかなり占拠されており、購入を自重しているのですが、まとめ買いしてしまいそうです。


<気が付けばチケットショップが見当たらない>

とある割引券を使わないので金券ショップに売ろうと思い立ちました。しかし近所には全く見当たらず、古道具屋に持ち込んだものの相手にされませんでした。大学生だった平成の時分には、新幹線のチケットやら青春18切符のバラ券やら映画の割引券など色々お世話になったのですが、そういえば全く見かけなくなりました。ちなみに売ろうとしていた券はメルカリで大量に出回っていて、あまり売れていないようでした。皆考えることは一緒ですね。


2025年7月6日日曜日

【悲報】今年初めて、Gに遭遇

 筆者は築50年の古い公団住宅に住んでいます。一応、清潔には暮らしているつもりなのですが、毎年1~2回、Gに遭遇します。本日、夜に洗面所の体重計をどかした際に、下におわしました。こんなこともあろうかとゴキジェットとバスマジックリン(泡)のスプレーを近くに置いているので、それら2本を両手に構えて、まずゴキジェットで先制攻撃をして、バスマジックリン(泡タイプ)で止めをさしました。昆虫ですから神経毒だけではなく、界面活性剤で気門を塞ぐのが肝要と考えております。Gは泡の海でひっくり返ってバタバタしておりましたが、しばらくして動かなくなりました。格闘終了後は亡骸をティッシュでくるんでビニール袋へ。

いつも不意を突いて登場されるのでビックリします。今日も久しぶりに激しく動揺してしまいました。効果があるのかわかりませんが、また各種グッズを買ってきて部屋に設置しようと思います。既に毒餌系の置物は所狭しと置きまくっているので、Gが苦手だというミント系の匂いのする防虫剤を買ってみようと思います。


(追記)

どこから侵入したかを考察するに、帰宅時に私の体に付着して入ってきたように思います。職場から家への帰路の途中に草深い公園があるのですが、何かが飛来して体に触れたような感触を覚え、その後で部屋にてGに遭遇する、という経験が2回ほどありました。ネットで調べると、夜は活動が活発で、ヒトの汗に引き寄せられることがあるとありました。迷惑な話です。これがカブトムシかクワガタだったら大人気なんですけどね。

(追記2:2025年8月28日)

昨晩の午後11時頃に帰宅途中、上記の草深い公園を通っているときに未確認の昆虫が帽子めがけて飛来しました。Gと直感し、その後は体中をパタパタとはたいて「何か」を払い落とそうとしましたが手ごたえ無し。ふと思い立ち、背負っていた巾着型のリュックサックの中身をだしてはたいていたところ、「Gのようなもの」が飛び出していきました。G以外にも、公園内の道のいたるところで蜘蛛が巣をはっているし、夜は夜行性昆虫が活発化するので嫌ですね。こういう目に合わないように、早く帰りたいと思いました。