2025年6月29日日曜日

「なぜ「星図」が開いていたか」(松本清張著、光文社文庫)でトリックに溺れる

推理小説では、犯人が様々なトリックを弄し、読者は読み進めながらそれを看破するのが楽しみ方の一つと思います。しかし、トリックの中には「流石に無理だろう」というが多々あり、それにツッコミを入れるのもまた楽しみの一つです。

松本清張作品の短編の中にもそうしたツッコミ欲を掻き立てられる作品があるように思います。例えば、前の記事の「馬を売る女」に収蔵された「駆ける男」では若い後家さんが旦那さんを殺すのに「ハシリドコロ」という山菜を使います。私としては、何もそれを使わなくてもと思ったりしました。というのも、仕事で動物実験をすると、投与量のちょっとした違いで必ずしも思った効果が得られなかったりします。なので、投与量が安定しない(どのくらい毒が含まれているか定量できない)食べ物を殺人に使うのはリスクが大きい気がしました。量を増やすとバレやすいしね。

「なぜ「星図」が開いていたか」(松本清張短編全集、第7巻収蔵)も30ページくらいの短編ながらツッコミどころが多くて好きな作品です。本作では旦那の同僚と不倫をしている奥さんが、旦那の同僚と結託して、バレないように夫の殺害を企図するのですが、構想が遠大です。夫は心臓が弱いのを利用して心臓麻痺による殺害を狙うのですが、そのために職場で炎天下にハンガーストライキ(ハンスト)を決行し、そこに義侠心の強い夫を参加させます。ストライキを起こすだけでも一苦労です。そしてハンストで疲弊した状態で帰宅した夫にある方法でびっくりさせて仕留めます。その方法が悪戯レベルなので、流石に無理があるように思いました。作中では念願かなって上手く行くのですが、死亡診断書を書いたお医者さんと刑事さんの手によって犯罪が暴かれて幕を閉じます。警察は優秀ですね。

トリックが前面に出た作品は一種の思考実験として楽しいです。