2024年11月24日日曜日

「走ることについて語るときに僕の語ること」(村上春樹著、文春文庫)を読み返して

高名かつ人気作家にして、著名なアマチュアランナーとしても知られる村上春樹氏の走ることに関する自伝的な作品です。自分が小説を書き始めたきっかけや、走り始めたきっかけ、走り続けることと創作の関係、記録が伸びないことへの葛藤などが赤裸々に綴られています。走る事について、とてもストイック取り組まれている様子が語られていて、こういうのを読んでしまうと、私などはランナーと自称して良いのかさえ悩むほどです。

創作にとって最も大事なものは才能だが、それはコントロールできない。そして次に重要なものが集中力と持続力で、それらは鍛錬によって強化可能であり、その作業は日々のジョギングによる鍛錬に類似している、という箇所があり、大いに参考になります。特に著名なミステリー作家のレイモンド・チャンドラー氏が語ったとされる、「たとえ何も書くことがなかったとしても、私は一日に何時間かは必ず机の前に座って、一人で意識を集中することにしている」という件は、とても説得力があるように感じました。私もレベルはかけ離れていても原稿や論文に追いかけられているので、こういう作業の重要性は実感します。ただ、同時に実践することの難しさも痛感しているので、凄いと感心するのみです。持続的に集中し続けるのは本当に気力が必要なので、ついつい実験や他の作業に逃げてしまうんですね。結果、研究とか哲学が薄っぺらいまま進化しないんですけど。

またこの本には小説を書き始めるきっかけとして、1978年4月1日に神宮球場で行われたヤクルト対広島戦のことが綴られています。何でも広島のデイブ・ヒルトンという選手がヒットを放った瞬間に、小説を書こうと思い立ったとか。先日、この選手が亡くなった際のネットニュースで、村上春樹氏に小説を書くインスピレーションを与えた選手が亡くなった、というような紹介をされていたのを記憶しています。