ここしばらくは、某テレビ局のCM差し止めが続いていますが、それに関わる営業の方々はきっとご苦労されていると推測しております。その心情の一端でも感じることができる短編小説が松本清張の「空白の意匠」です。
この小説は、地方で発行部数十万部に満たない小新聞を発行しているQ新聞社、広告代理店である弘進社、広告主である和同製薬の三社を舞台にした社会派小説です。主人公はQ新聞社の広告部長である植木欣作です。Q新聞は収入の大半を弘進社が回してくれる広告収入に依存しており、中でも和同製薬は大広告主です。ある日、Q新聞は和同製薬の主力商品であるランキロンという強壮剤がもとで中毒死が生じたという記事を商品名を明記して報じてしまいます。しかもランキロンの広告の上に二段で記事を配置するという間の悪さです。これに弘進社も和同製薬も激怒し、植木は肝を潰します。慌てて弘進社にとりなすも、郷土新聞課長の名倉には会ってもらえず、若い副課長の中田には散々嫌味や罵倒を浴びせられます。植木はなんとか事態を好転させようとQ新聞の編集部や専務に掛け合ったり、東京の弘進社に出向いたり、和同製薬へお詫びに伺ったりしますが、一向に状況は改善しません。さらに中毒死自体がランキロンが原因ではないことがわかり、全面的な訂正を求められます。植木は屈辱に耐えながらも唯々諾々と彼らの意向に従いますが、最終的な着地点が少しも見えてこず不安な日々を過ごします。
そんな折、事態収束の鍵を握る、弘進社の郷土新聞課長の名倉がQ新聞社を訪れます。植木は専務らと共に社を挙げて名倉を接待し、名倉も終始上機嫌で応じます。そのまま接待は終わり、列車で帰路につく名倉をQ新聞社一同が安堵しながら送り出そうとした刹那、名倉は専務を呼び、それまでの上機嫌とは一変させてこう言います。
「あたしもね、せっかく、ここに来たんですから、今度の厄介な問題については、和同製薬さんに何かオミヤゲを持って帰らねばなりませんでな。これはわかっていただけるでしょうね。」
専務はその意味を了承し、植木はその日のうちに辞表を書かされて物語が終わります。
何度読み返しても最後の1ページは心が震えます。松本清張のラストシーンの切れ味の良さは絶品です。途中、植木が忍従を強いられる場面なども社会人経験が長くなるにつれて、心に沁みます。きっと某局界隈でも、この小説の植木のように立ち回りに苦労されている方が沢山おられるのだろうと想像が膨らんでしまいます。仕事って大変ですね。