2024年8月22日木曜日

三代目・古今亭志ん朝の「鰻の幇間(うなぎのたいこ)」を聞きながら

鰻の幇間(うなぎのたいこ)という噺を一時期ずっと繰り返して聞いていました。主人公である太鼓持ち(幇間)の一八(いっぱち)のテンポの良い喋りが大好きです。この噺は、太鼓持ちの悲哀を現した噺と言われることもあるようですが、志ん朝版は一八と旦那の騙し合いが軽妙に描かれ、さわやかな印象すら受けました。「野だいこ」である一八が奢ってもらおうとして、逆に奢らされるたかられる内容から、自分の中では「野だいこ狩り」と名付けています。噺のまくらには、幇間の世界で名人と呼ばれた桜川忠七のエピソードが出てきます。座を盛り上げる要諦は、自分で喋らず、お客に喋らせること、といった含蓄のある話が出てきます。


あらすじ:

主人公は、師匠を持たない幇間(野だいこ)である一八(いっぱち)。毎日ヨイショして御足をもらえるお客さんを求めて、お宅へ伺ったり(穴釣り)、道を行く立派な風体の旦那を捕まえてはゴチにあずかろうと頑張っている(丘釣り)。ある日、一八が通りを歩いていると、向こうから浴衣がけの旦那がニコニコしながら一八の方へ歩いてくる。一八は誰だか思い出せないが、ともかくお客になりそうだというので調子を合わせて旦那をヨイショする。旦那は最初は嫌がっていたが一八に根負けして鰻を御馳走すると言い出す。これはしめたと一八さんは喜ぶが、連れていかれたのは古ぼけて汚い鰻屋さん。


店の中に入ると、旦那から先に二階の座敷に上がるように言われる。しかし店員の案内も無く、階段は急で部屋も汚い。一八は悪態をつきつつも座敷に座って旦那を待つ。ほどなくして旦那が上がってきて二人で鰻を食べ始める。そのうちに旦那が厠へ行くというので中座してしまい、座敷には一八が独り残される。一八は旦那が誰だったか思い出そうとするのだが、やはり思い出せない。待てど暮らせど旦那が一向に戻ってこないので、お迎えに上がろうと厠へ行くが、旦那はすでに帰ったと店員から告げられる。一八は、これは自分に気を遣わせないように先に勘定を済ませてくれたのだと早合点し、嬉々として酒を飲み始める。


ところが旦那からの心付けを期待して店員に探りを入れると、実は会計すら済んでいないことがわかる。ここで自分が旦那に嵌められたことがわかり、がっかりする一八。途端に店員に酌を求めたり、座敷の掛け軸に文句を言ったり、鰻や漬物が不味いと悪態をついたり、態度を豹変する。その後、渋々会計に応じるも、請求額は9円75銭。たった2人前の鰻とお銚子が少々で高すぎると一八が店員に文句を言うと、「実はお連れ様がおみやを3人前お持ち帰りになりました」とのこと。あまりの手際の良さにぐうの音もでない一八。着物を新調しようと貯めていた十円札で会計を済ませ、とぼとぼと玄関に行くが自分の下駄がない。下足番に事情を聴くと、旦那が履いて帰ってしまったとのこと。仕方がないので旦那の履いていた草履を出せというと、「新聞紙にくるんでお持ち帰りになりました」と返される。