2024年8月25日日曜日

三代目・古今亭志ん朝の「五人廻し(ごにんまわし)」を聞きながら

志ん朝の「五人廻し」も大好きな演目です。7人もの登場人物の演じ分け、軽妙かつハイテンポの話の流れ、とても見事だと思います。この演目の登場人物のうち、喜助・喜瀬川・杢兵衛(もくべえ)の三人は、「お見立て」という別の演目にも出てきます。また、喜瀬川花魁は「三枚起請」でも登場します。どちらも大変面白いです。


あらすじ:

「女郎買い、振られて帰る果報者」という川柳がある。若いうちに遊郭でモテてしまうと、お金の工面などでいずれ身を持ち崩してしまうからモテない方が良いんだ、という意味なのだが、やはりモテたいのが男の性である。関東の遊郭には「廻し」という制度があり、一人の花魁が一晩で複数の客の相手をする。廻しの客にはそれ専用の部屋があてがわれるのだが、その部屋は布団しか置いていない極めて簡素なもので、客は花魁が来るまで夜中まで待たされることがしばしばだった。しかも花魁のわがままで、結局来てもらえないこともあり、しばしば揉め事になる。その仲裁をするのが、女郎屋の若い者であり、花魁と客の板挟みにあって日々苦労が絶えない。この噺の登場人物は、喜瀬川という花魁と、廻し部屋に来た五人の客、そして花魁と客の間をとりもつ若い者の喜助の合計7人。

一人目の客は期待に胸を膨らませて待つのだが、一向に花魁が現れない。仕方が無いので目を開けていびきをかいて寝たふりをしていると、花魁を探して喜助が現れる。不機嫌になった客が喜助を呼び止め、花魁が来ないのなら代金(玉、ぎょく)を返せと迫る。喜助は、それは、廓(くるわ)の法、すなわち廓法(かくほう)で禁じられているのでダメだと突っぱねる。カチンときた客が、「廓法だと、こちとら三つの年から大門くぐってるんだ!吉原の事に関しては知らないことはないぞ」と吉原の由来から女郎の出自、おでん屋のネタから住み着いている犬のふんまで一気にまくしたてる。しまいには「塩をぶっかけて頭からかじるぞ」と悪態をつき、喜助は這う這うの体で部屋をでる。

すると次の間の客から呼び止められ、部屋へ入るといかにも田舎者の客が畳を上げて何かを探している様子。曰く、「今日買った、あまっこが見当たらない」と冗談とも本気ともわからないことを言う。喜助がもてなすも「あまっこが来ないなら玉を返せ!返さないと肥えたごを担いできて頭からぶっかけるぞ」と怒鳴りつけるので、また這う這うの体で部屋を出る。

部屋を出ると「ご廊下をご通行の君」と呼び止められる。もはや悪い予感しかし無いのだが喜助が中へ入ると、何の騒ぎだと聞くので、客に玉を返せと迫られたと話す。すると「玉を返せというのはいけない、男が口にしていい言の葉ではない、昔から傾城傾国(けいせいけいこく)に罪なし、通うまろうどに罪あり、と言う」と一見物わかりの良い様子。しかし、喜助に背中を見せてほしいを言うので、何故かと聞くと、ここに真っ赤に焼けた火箸があるので名前を書いてあげようと物騒なことを言い出す。喜助はびっくりして部屋を飛び出す。

廊下にでると、別の部屋から「そこの小使い!」と声がかかる。部屋へ入ると「何歳に相成る?」と聞くので「四十六歳に相成ります」と答えると、「男子ともあろう者が、四十六にもなって、客と娼妓と同衾するを媒介して何が面白い?意志薄弱からして、かかる巷の賤業夫に身をやつし、耳に淫声を聴き、目に醜態を見る。今日を無念夢想、空空寂寂と暮らしていて今更両親を怨むな」と、説教をしてくる。喜助は御意見ありがたいが御用件はと聞くと、「ここに枕が二つある。一つはむろん我が輩が使用することはわかる。しかしもう一つは誰が使うのか?」と詰問する。そのうえ、四隣沈沈(しりんちんちん)、閨中寂寞(けいちゅうせきばく)、人跡途絶え(じんせきとだえ)、闃(げき)として声無きはちと心細い!と堂々と泣き言をいう。さらに玉を返さないと、上京している故郷の同朋を百人引き連れて押しかけ、首根っこを引っこ抜いて爆裂弾を叩きこむと息巻く。喜助は這う這うの体で部屋を出る。

廊下に出て喜瀬川花魁を探し回っていると、やっと喜瀬川のいる部屋にたどり着く。そこには喜瀬川と馴染み客の杢兵衛(もくべえ)の姿が。喜助が他の部屋も回ってくれと喜瀬川に頼むが、ここから離れたくないと駄々をこねる。杢兵衛は、喜瀬川とは年季が明けたら夫婦(ひいふう)になるから、廻ってやれと自分からも勧めていると余裕たっぷり。喜助が他の客から玉を返せと迫られているというと、「玉返せってか?それは田舎もんだ、そんなんだからあまっこに可愛がられないんだ」と言い出す。喜瀬川が杢兵衛に4人分の玉、合計2円を建て替えてくれれば、この部屋に長くいられると甘えてくる。杢兵衛は嬉々として金を払う。喜瀬川はさらに喜助にも小遣いとして五十銭をやってやれ、と言うので、これは渋々応じる。さらに自分にも五十銭くれというので不思議に思い金を渡すと、「これでこの金は私のモノよね?」と聞いてくるので、そうだと言うと、その金を杢兵衛に戻すので「おらがもらってどうする?」と聞くと、「だからぁ、旦那も一緒に帰って下さいよ」と返す。