志ん朝の「化け物使い」も何度も繰り返し聞きました。割と人使いの荒い職場にいるからでしょうか? こき使われてしまう化け物にも、ついつい感情移入してしまいます。化け物なのに御隠居から「酷い目にあわせるぞ!」と脅かされると、ガタガタ震えるところが可愛らしいです。女のっぺらぼうに針仕事をさせるシーンで、針と糸を器用に使いこなすのっぺらぼうを見て、旦那が「どっかから見てるんだな」と感想を漏らす時の間が絶妙だと思いました。
あらすじ:
本所割り下水に住む吉田さんは、元御家人さんの御隠居で独り暮らし。奉公人を雇っているのだが、あまりの人使いの荒さに誰も数日として居ついてくれない。そのころ日本橋葭町(よしちょう)には千束屋(ちづかや)という大きな口入屋があった。千束屋では吉田さん宅の奉公人の職を斡旋するのだが、御隠居の人となりが知れわたっており、皆及び腰になる。そんな中、杢助(もくすけ)さんが平然と名乗りを上げる。周囲は心配して止めるのだが、自分は心構えが違うのだから耐えて見せると動じない。
杢助さんが御隠居の下へ伺うと、二、三日は目見え、今日は骨休みだと告げられるのだが、舌の根も乾かぬうちに、薪割り、炭の準備、縁の下の蜘蛛の巣払い、天井裏の掃除、塀に書かれた悪戯書きの掃除、どぶ掃除、向こう三軒両隣の掃除、品川の青物横丁まで御隠居の書いた手紙を届け、ついでに千住に回ってくれ、と矢継ぎ早に用事を言いつけられる。しかも、今日は骨休みだからメシは抜きだと告げられる。
そんな人使いの荒い御隠居の下だったが、杢助さんは3年の間立派に勤めあげた。ある時、杢助さんが髪結い床に行くと、親方から御隠居が化け物の出る屋敷に引っ越そうとしていると教えられる。それを御隠居に問いただすと、化け物がでるという噂はあるが屋敷を一目見て気に入ったので、来月に引っ越す予定だと言われる。化け物が何より苦手な杢助さんは、とてもそんな屋敷には住めないから引っ越したら暇をくれと御隠居に願いでる。御隠居は、千束屋に頼めば代わりは幾らでも居るから出ていけと強気に出るが、開き直った杢助さんから千束屋では悪評が広まっているから代わりは見つからないだろうと返される。
杢助さんにはっぱをかけられた御隠居は、代わりの奉公人を探すのだが一向に見つからない。そうこうしているうちに引っ越しの当日になり、杢助さんはたった独りで引っ越し作業から食事の支度まで全てやり遂げて、日暮れ前に逃げるように出て行ってしまった。
引っ越しした晩、御隠居は行燈の灯りで書物を読んでいるのだが、急にぞーっとした寒気に襲われる。ふと気づくと目の前には見知らぬ小僧がお辞儀をしている。顔を上げさせると、なんと一つ目小僧だった。御隠居は驚くどころか、一つ目小僧が出てきたのを幸いと皿洗いから按摩、寝床の用意など次々と用事を言いつける。一つ目小僧は用事を済ませると、いつの間にか消えてしまった。
次の晩もぞーっとした寒気に襲われると、家が大きく揺れ、庭に大入道が現れた。御隠居はこれ幸いと、石灯篭を直させたり、屋根の上の草を抜かせたり、皿洗いや床を延べるように命じる。大入道も用事を済ませると、いつの間にか消えてしまう。
その次の晩は女ののっぺらぼうが現れる。御隠居は女性がいると家の中が華やいで良いと大喜び。さらに着物のほつれを直すように命じるのだが、ほどなくして消えてしまった。
女ののっぺらぼうが大層気に入った御隠居。次の晩は心待ちに待つのだが、待てど暮らせど出てこない。代わりに大きな狸が障子の影から現れる。狸は押し黙って何か考え込んでいる様子。御隠居は、これまで出てきた化け物はすべて狸が化けた姿だったのかと合点する。
半べそをかいた狸が御隠居に暇乞いを願いでる。曰く、「こう化け物使いが荒くっちゃ、とても辛抱なりかねます」