噺のマクラには、寄席にきたお客さんに差支えの無い話をするコツとして、3ぼう(泥棒、つ○ぼう、吝ん坊)というのが出てきます。特に吝ん坊(ケチ)は絶対に寄席には来ないのだから、うんと悪く言うのだとか。この噺の西念さんもコツコツとお金を貯めた挙句、他人に使われてしまうのだから滑稽な役回りです。
個人的な聴き所としては、下谷山崎町から木蓮寺までの道中を淀みなく一息で語るシーンで、「麻布絶口釜無村の木蓮寺に着いた時には皆大層くたびれた」の台詞の後には毎回思わず拍手をしたくなります。
あらすじ:
上野の下谷山崎町にある貧乏長屋に住む、お坊さんの西念(さいねん)さんは、毎日江戸中を歩きまわって托鉢をして生計を立てていた。ある時、体調を崩して寝込んでしまうのだが、お金が惜しくて薬も飲まなければ、医者も呼ばないので一向に治らない。西念さんの部屋の隣りには金山寺味噌という嘗味噌を売っている金兵衛(きんべえ)さんが住んでおり、仕事の帰りに西念を見舞ってやる。金兵衛は西念に医者や薬を勧めるのだが、西念は金がかかるから嫌だと拒み続ける。そこで、気分転換に何か食べたいものは無いかと金兵衛が聞くと、西念はあんころ餅を一貫ばかり欲しいと言いだす。金兵衛が買ってきてやるからと勘定くれと催促すると、言い出したのは金兵衛だから金兵衛が払うようにと返してきた。金兵衛は渋々承諾して一貫のあんころ餅を西念に買ってやる。
金兵衛は西念に一貫のあんころ餅を見せて食べるように勧めると、西念は他人の見ている前では食えないので帰って欲しいと言う。仕方が無いので金兵衛は部屋に戻り、壁の割れ目から西念の部屋を覗いていると、西念はあんころ餅の餡と餅を分けてしまい、手元から出した汚い頭陀袋をひっくり返して山のような一分銀と二分金をとりだすと、餅にくるんで食べ始めた。どうやら自分の金を残して死んでいくのが惜しいので、あの世まで持っていこうというつもりらしい。西念はすべての餅を飲み込んだところで苦しみだし、金兵衛が慌てて駆けつけて餅を吐き出すように説得するも拒み続けて息を引き取ってしまう。金兵衛は西念のお金の事を知っているのは自分だけだから、どうにかして自分のものにしようと一計を案じる。
ほどなくして金兵衛は大家のもとを訪ねて、西念が死んだこと、西念から今わの際に金兵衛の菩提寺に葬って欲しいと頼まれたことを伝える。大家が金兵衛の菩提寺を尋ねると、麻布絶口釜無村(あざぶぜっこうかまなしむら)の木蓮寺(もくれんじ)だと答える。大家は長屋の連中を集めて、明日皆で木蓮寺まで西念を弔いに行こうと提案するが、金兵衛から今夜のうちに運んでしまおうと返される。結局、今夜弔いに行くことになり、長屋の連中が西念の遺体の入った菜漬けの樽(早桶ではない)を担いで出かけることになった。
(この後、下谷山崎町から木蓮寺までの道中の地名を畳みかけるように話します。それは見事なものです。)
木蓮寺に着くなり和尚を呼ぶのだが、和尚はへべれけに酔っている。しかも法要をしようにも貧乏寺で袈裟も払子も何にもない。仕方ないので和尚に風呂敷を被せてホウズキの化け物みたいな恰好をさせて、払子の代わりにハタキを持たせて、茶碗を箸でたたかせて、どうにか経を上げてもらう。和尚は途中で欠伸をしながら、甚だ怪しい御経を読む。弔いが終わったので金兵衛は長屋の皆を返して、寺の台所からコッソリ鯵切り包丁を懐に入れる。
その後、金兵衛は西念の遺体を焼き場(火葬場)まで運び、今すぐに焼いてほしいと頼む。しかし焼き場の作業員(隠亡)からは順番待ちだから明日の朝にならないと無理だと告げられる。金兵衛は散々脅かして、今すぐ焼くように、ただし腹の辺りは生焼けにするようにと注文をつける。
金兵衛は、西念の遺体が焼かれている間、新橋の夜明かしで時間をつぶして、頃合いを見計らって焼き場へ戻る。隠亡を追い払い、隠し持っていた包丁で焼かれた遺体の腹の辺りを探ると、もくろみ通り一分銀と二分金が山のように出てくる。金兵衛は狂喜しながら袂にお金を入れ、隠亡に捨て台詞を吐いて、お骨をほったらかしたまま出て行ってしまう。
こんなことをした挙句に金兵衛は目黒で餅屋を開くと大層繁盛したそうで、「黄金餅」由来の一席でした。
調べた言葉:
「一貫というと千匁」:一貫が3.75キログラム、一匁が3.75グラム(五円玉と同じ重さ)