著者のジェームス・W・ヤングは広告業界で長い間顕著な業績を上げた方で、自分の方法論を簡潔にまとめた読み物です。コピーライターとして、新しいネタを考える過程を下記の5段階に分けて、それぞれをわかりやすく解説しています。
1.資料を集める
一般的資料、日常的にやること、スクラップブックの作成が便利
特殊資料、特定のテーマについてやること、カード索引法が便利
2.資料を咀嚼する
部分的なアイディアを書き留める
3.資料を組み合わせる。(無意識の作業)
4.アイディアの誕生
5.生まれたアイディアを批判、検討する
私が心に響いた箇所は、第1段階の特殊資料を集める際の下記の記述です。(下線は私が特に重要と思った場所です)
『製品とその消費者についての身近な知識を手に入れることについてこれまで何度も言い古されてきた話の真意とはこのことである。私たちは大抵この知識を収得する過程であまりに早く中止してしまう。表面的な相違がほとんど目立たないような場合、そこには何ら相違点がないとすぐにきめてしまう。しかし、十分深く、あるいは遠くまで掘り下げていけばほとんどあらゆる場合、すべての製品とある種の消費者との間に、アイデアを生むかもしれない関係の特殊性が見つかるものなのだ。』この文章の後に、一見すると何の変哲もない石鹸について、分厚い本が書けるくらい深く追求した結果、5年間広告に使えるだけのコピーのアイディアを出すことができたとありました。
私は研究の申請書作成がやや苦手で、研究の魅力を上手く伝えることに苦労しております。特に、類似の研究が既に数多くなされているなかで、自分の研究の差別化という所が本当に苦手です。そういうところに上記の記述が応用できないかと思いました。
ちなみに、この本の解説は竹内均先生。竹内先生は地学を専門とする東大名誉教授にして科学雑誌Newtonの初代編集長で、昭和の科学少年にはお馴染みの人物です。本文と同じくらいの長さで自分の仕事術を紹介してくれています。竹内先生は東大を退官してから亡くなるまでの二十年間に300冊近くの書籍を出されています。その仕事術は、本文の方法と酷似していたということで、仕事の種類は違えども仕事の仕方は共通しているという話でした。