冬休みの読書ということで、「陰の季節」(横山秀夫著、文春文庫)を読みました。この本は短編集で、表題作の他、「地の声」、「黒い線」、「鞄」の合計4作品が収録されています。いずれの作品もD県警の警察内部を舞台にした社会派小説です。私がこれまでに読んだ警察小説というと、大沢在昌さんの新宿鮫シリーズとか松本清張の長短編などがありましたが、本作品はそれらと全然違いました。まず、主人公が事件を直接捜査する刑事ではなく、警務部という警察内部の組織に属している点と、さらに作品内で起こる事件が殺人事件などの凶悪事件というよりは内部の不祥事や政治家との折衝、昇進降格人事など非常に地味な点が目を引きました。私には、警察にそういう部署があることすら知らなかったので、とても新鮮でした。警察小説とともにサラリーマン小説のようにも感じました。
もう一つ驚いたのは、この作品が書かれた1998年のようですが、社会人を取り巻くその後の環境の変化です。作品では、みんな当たり前に煙草を吸うし、男尊女卑な台詞が偉い人の口から平然と語られるし、みんな出世欲が凄いです。今では、大学でもジェンダーバランスやアンコンシャスバイアスなどを耳にタコができるほど言われるし、キャンパス内の喫煙可能な箇所は寒風吹きすさぶ掘っ立て小屋(正式名称は卒煙ブース、何で止める前提なんだ?)に限られてしまっているし、わずかな間に随分変わったと実感しました。両方の時代を知る私には、ハッとする小説でした。