この本は、年末年始のお休みの間に読もうと思って買っていた本の一つでした。しかし休みの間は読むことができず、今週末にやっと時間と精神的な余裕ができたので読了しました。
私は小さい頃から司馬遼太郎さんの作品が好きで、主だった長編小説や「この国のかたち」などのエッセイは大体読んできました。従って私の日本史の知識は、ほとんど司馬遼太郎さん(と吉川英治さん)の小説から得たもので、いわゆる司馬史観にどっぷりと浸かって育ってきました。そんな中、本屋さんでこの本をパラパラと見たときに、今まで見たことの無い短編が収められていたので興味を惹かれて購入しました。
この本には、権平五千石、豪傑と小壺、狐斬り、忍者四貫目の死、みょうが斎の武術、庄兵衛稲荷、侍はこわい、ただいま十六歳、の合計8編の短編小説が収録されています。初出を見ると、いずれも昭和30年代から40年頃にかけて書かれたようなので、作者が30~40代の作品のようです。そのせいか、文章がとても若々しいように感じました。どの作品も面白かったのですが、私が最も印象に残ったのが「権平五千石」でした。
この作品の時代背景は織豊時代から江戸時代にかけてで、主人公は平野権平という人物です。平野権平は、豊臣秀吉の家臣で武勇に優れ、柴田勝家との賤ケ岳の戦いで名を挙げた、世に言う賤ケ岳七本槍の一人です。しかし地味で目立たず、不器用な性格で、秀吉から愛されず、福島正則や加藤清正といった他の七本槍たちが皆大名に取り立てられたのに対して、わずか五千石の旗本止まりでした。その後、関ヶ原の戦いで会津遠征に東軍として参加したため、江戸時代に入ると徳川家康から取り立てられるも、やはり大名としてではなく旗本寄合席としての身分で、石高も五千石で据え置きでした。しかし福島正則や加藤清正らがお家断絶の憂き目にあう中、平野家は代々無事に家督を相続し、江戸時代の末期には小禄ながらも大名に取り立てられ明治まで続きました。人間万事塞翁が馬、と言う感じで何が幸いするかわかりません。社会人経験が長くなると、こういうほっこりとした作品が心に沁みます。人生色々あるけれども、めげずに頑張ろうと思います。