この噺は、最後に大どんでん返しがあるので好きです。世の中には色々なことを商売にする人がいるのだと、お話の中ながら感心します。自分もその逞しさを見習いたいものです。噺の途中で、ガマの油売りの口上が出てくるのですが、志ん朝の語りがまさに立て板に水といった感じで本当に見事なものでした。
あらすじ:
浅草観音の境内は今日も行商人たちでごった返している。その中で、若い女が鎖鎌の芸を見せて座を沸かせている。続いて若い男が「さあさあお立会い。御用とお急ぎで無かったらゆっくり聞いておいで」とガマの油売りの口上を始める。そして、ガマの油の膏薬はどんな刀傷にも効くと実演を交えながら説明していると、歳の頃、五十過ぎの侍が現れ、「本当にどんな傷にも効くのか」と聞いてくる。男は「どのような傷か、傷所を拝見したい」というと、侍は渋々背中の古傷をみせる。そして傷にまつわる懺悔話を始める。曰く、侍は岩淵伝内(いわぶちでんない)と言い、今から二十年前、さる福島の藩にいたのだが、部下の木村惣右衛門(きむらそうえもん)の妻に横恋慕してしまい、何とかなびかせようと日々言い寄っていた。そして惣右衛門が留守の時を見計らって、妻を手籠めにしようと画策するが、惣右衛門に見つかってしまう。惣右衛門は怒り心頭で伝内を罵倒するのだが、伝内は逆に惣右衛門を抜き打ちで切り捨ててしまった。伝内は後悔して逃げ出そうとすると、乳飲み子を抱えた惣右衛門の妻が半狂乱で追いかけてくる。その際に投げた手裏剣が背中にあたり、その傷が今でも痛むのだという。
その話を聞いて、若い男の顔色が変わった。一尺ばかり飛びのくと、「やあ、珍しや岩淵伝内!かく言う某は、汝に討たれし木村惣右衛門が一子、惣之助。これに控えしは姉のあや。いざ尋常に勝負せい!」と息巻く。伝内は大いに驚くも観念し、「観音様の境内を血で汚すわけにはいかない。明日巳の刻、高田馬場で果たしあいをしよう」と申し出る。境内は騒然とするのだが、姉弟は伝内の申し出を受け入れる。
噂が噂を呼び、翌日の高田馬場は見物人で黒山の人だかりだった。果し合いまで時間を潰そうと周りの茶屋もすべて大混雑である。皆で見物に来ていた大工連中も酒を飲んで時間を潰しているのだが、そのうちに巳の刻を過ぎてしまった。しかし何も始まる気配がない。不思議に思っていると、同じ店に五十過ぎの侍が酒をしこたま飲んでいる。彼こそが昨日の仇討ちの侍、伝内ではないかと気づき、仇討ちがどうなったかと聞く。
すると伝内は悪びれもせずに、今日は止めだと告げる。それではあの姉弟が許さないだろうと言うと、あれは拙者の娘と倅で今頃は洗濯でもしているだろうと言う。何だってそんな嘘をつくのかと聞くと、伝内がこれが自分たちの商売だと言って一言。
「拙者は仇討ち屋だ。仇討ちがあると聞けば大勢の人が集まる。さすれば茶屋が儲かる。その上がりの二割をもらってこうして楽に暮らしておる」