私が聞いているバージョンには、噺のマクラに父親である五代目古今亭志ん生にお寿司屋さんに連れて行ってもらった話や、兄の十代目金原亭馬生と食事をしたエピソードなどが出てきます。興味深いと共に、やっぱり凄いサラブレットなのだと再認識します。
あらすじ:
世の中が呑気な時分には、天丼幾つ食えるとか他愛のないことで賭け事をよくしたそうです。中でも、蕎麦を何枚食べられるかを賭ける、蕎麦賭けが良く行われたそうです。当時のそばは、今のそばよりも一人前の量が少なかったんだそうです。それでも自分の背丈まで積んだせいろを食べるのは大したもので、そういう人を俗にそばっくいと言ったんだそうです。(江戸時代のそばは十割そばで切れやすく、せいろで蒸して食べていたそうです。)
ある蕎麦屋に毎日10枚ずつ盛りそばを食べにくる客がいる。周りの人が感心して蕎麦賭けを客に持ち掛ける。最初は20枚でどうだというが、客はとても無理だと言うので、15枚で1分(15枚食べられたら1分もらい、食べられなければ1分払う。1分金は1両の四分の一)で賭けが成立する。客は心配だと言いながらも15枚をペロリと平らげて、1分金をせしめて店を出る。お金を取られた方は悔しくて、次にやる時は20枚にしようと打ち合わせる。
次の日、同じ客が蕎麦屋にやってくる。昨日は家に帰ってから医者を呼んだりして大変だったと言ってくるが、昨日負けた方は20枚で2分で再度賭けを持ち掛ける。客はまた渋るものの結局は承諾して、ペロリと平らげて2分を受け取って出ていく。また取られた方は悔しくて、明日は30枚で1両だと息巻く。しかしその賭けもあっさりと取られてしまう。散々お金を取られた方が悔しがっていると、ニヤニヤ笑って見ている奴がいる。なぜ笑っているのか憤慨すると、あの客が誰か知らないのかと聞いてくる。その人曰く、あの客は清兵衛(せいべい)さんと言って、蕎麦賭けでは有名な人で、人呼んでお蕎麦の清さん、詰めてそば清と呼ばれていて、一時に盛りを50枚も食べられるのだという。しかも蕎麦賭けが得意で、蕎麦賭けで家を二軒立てたほどの実力者だと言う。何とか勝つ方法は無いかと聞くと、60枚で3両なら勝ち目があるのではないかと言ってくる。そこで次の日、清さんにその賭けを持ち掛けるのだが、日を改めて欲しいと逃げられてしまう。
そのうちに清さんが商売用で信州に行き、山道で迷ってしまう。すると目の前に猟師さんが歩いているのが見えたので、しめたと思い付いて行こうとすると、突然脇の茂みから大きなウワバミ(大蛇)が現れ、猟師を丸呑みにしてしまった。ウワバミは人を1人飲み込んで苦しそうにのたうち回る。清さんはどうなるか興味津々で見ていると、ウワバミが赤い草が生えている茂みまで行き、草を舐めるとたちまちお腹がこなれてしまった。清さんは蕎麦賭けで苦しい時に、この赤い草を使おうと思い、積んで江戸にもどった。
ふたたび蕎麦屋に出向くと、常連から70枚で5両の賭けを持ち掛けられる。清さんがあっさりと応じて賭けがスタートする。清さんは凄い勢いで食べ始めて、次々と平らげるのだが、60枚目を越した辺りから段々遅くなり、あと数枚を残して手が止まってしまった。清さんも頑張ろうとするのだがはどうしても入らない。困った清兵衛さんはちょっと風に当たらせてくれと頼む。動けない清さんを皆で縁側に出してやって、障子を閉めてもらう。そこでそばをこなすために信州で手に入れた赤い葉を舐め始める。
しばらくして店にいた連中は清さんを呼ぶのだが、返事が無い。不審に思って障子を開けると、清さんはおらず、代わりにそばが羽織を着て座っていた。実は赤い草は人間を溶かす薬で、清兵衛さんは消化を助ける薬だと思って舐めてしまい、体が溶けてそばが羽織を着ていた、という噺。
どなた様も御腹を立てませんように。